
ポーランドが生んだフレデリック・ショパンは凄い音楽家だと思うのですが、私が感じているショパンの「凄さ」に触れた記事がなかなか見当たらないため、今回はそのことについて書かせていただきます。
天才とは
天才についてはさまざまな見解がありますが、私が好きな定義は「その時代の制約の中で時代を超えた人」です。
たとえば、アルキメデスは紀元前にすでに積分的な考え方に到達していたと言われていますが、その概念を体系化するには時代的な制約が大きく、当時は実現されませんでした。そのおよそ2,000年後、ニュートンやライプニッツの手によってようやく積分として確立されました。
「誰にも見えない的を射る」という表現も、天才をよく表していると思います。しかし、たとえその的を完全に射抜けなかったとしても、見えない的を見つけ、それに挑み、当てた人はやはり天才だと思いますし、アルキメデスもそういった天才の1人だと思います。
ジャズとショパン
ジャズは、ヨーロッパの音楽とアフリカの音楽がアメリカ南部で融合することで生まれた音楽です。ハーモニーや楽器編成などはヨーロッパの音楽から、リズム感などはアフリカの音楽から受け継がれ、1800年代末ごろに誕生しました。
一方、ショパンはジャズ誕生の約40〜50年前にポーランドで活躍していました。彼の音楽にはハーモニーやリズムなど、ジャズに通じる要素が多く見られます。専門的に見ても、コード進行やリズムの自由さ、即興性などは、後のジャズとの共通点が多いといわれています。
実際、ショパンの音楽に使われているいくつかのコードは、100年後にジャズで多用されるようになったとされており、ポーランドの音楽評論家ステファン・キシェレフスキは「ショパンのコードは、ジョージ・ガーシュウィンやデューク・エリントンの音楽でも聴くことができる」と語ったそうです。
ショパンの作品には一部の人が「プレジャズ」呼ばれる曲があり、ショパンはジャズ誕生以前の即興性を持つ完成度の高い音楽を、当時のクラシックの枠内で生み出しました。しかし、ヨーロッパとアフリカの音楽が融合して生まれるジャズの「起源」にはなり得ませんでした。
新しいものは異なるものの融合から生まれることが多いですが、西洋とアフリカの音楽の融合なしに、このような音楽を創り上げたショパンは、やはり天才だと思います。
ショパンとポーランド・ジャズ
以前から漠然と「ポーランド・ジャズはショパンの影響を受けているのでは?」と思っていました。今回、改めて調べてみたのですが、確たる証拠は見つけらなかったものの、幾つかの状況証拠から やはりポーランド ジャズはショパンの影響は受けているように思います。
ポーランド・ジャズは、クラシック音楽のような叙情性が強く感じられるのが特徴です。ポーランドの音楽大学卒業生の多くはショパンの音楽に精通しているそうです。ショパンの音楽を学んだアーティストがショパンのエッセンスをポーランド ジャズに持ち込んでいたとしても、不思議ではありません。
ポーランドのジャズ・アーティストによるショパンのジャズ アレンジは幾つか出されています。日本でも昔、トーマス・ハーデン・トリオ(美野 春樹さん)がクラシックのジャズ アレンジのアルバムである「JAZZで聴く」シリーズを出していましたが、ショパンのジャズ アレンジは特に おススメです。
ポーランド ジャズの認知度は日本でも上がってきていると思いますが、聞ける機会は少ないと思います。ポーランドではポーランド・ジャズは日常の娯楽で、息子もたまに聞きに行っています。ポーランド・ジャズやオペラといった、文化の薫りが高い娯楽に接することができるのも、ポーランド留学の醍醐味かもしれません。