専門人材育成機関としてのヨーロッパの大学

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先日、大学院に通っている知人から、「アメリカの大学は研究機関、ヨーロッパの大学は人材育成機関として運営されている。日本の大学はアメリカに倣っているため、研究機関としての色彩が強い。」という話を聞きました。

息子が通っているポーランドの大学の様子から感じる肌感覚としては、ポーランドの大学には人材育成機関としての色合いが非常に強いように思われます。しかし、実際に調べてみると、話はそれほど単純ではないようです。

「アメリカの大学は研究機関」というのは俗説?

アメリカにも、人材育成を主眼とする大学は数多く存在します。たとえば、教養を身につけた知識人や社会のリーダーを育てることを目的とした「リベラルアーツ・カレッジ」と呼ばれる大学が全米に約600校ありますが、これらの大学は日本ではあまり知られていません。

一方、日本人の多くが知っているマサチューセッツ工科大学やスタンフォード大学、ハーバード大学などは、世界大学ランキングである「Times Higher Education World University Rankings」で常に上位に位置しています。このランキングでは、教育だけでなく研究や論文の引用数も重視されており、研究と引用の評価が全体の約6割を占めています。

アメリカの研究大学には連邦政府から多額の研究助成金が支給されており、そのことが質の高い研究や論文が数多く生み出すことにつながっていると思われます。私たちがよく知っているアメリカの名門大学だけを見れば、「アメリカの大学は研究機関である」という印象は、ある程度事実に即していると考えて良さそうです。

学士課程で見るアメリカとヨーロッパの教育の違い

アメリカの有名大学は研究資金力の強さゆえに研究機関としての側面が強いものの、それがそのまま学士課程の教育に違いとして現れるとは限りません。むしろ、1年次から専門教育を行うヨーロッパの学士課程の方が3年次から専門教育を行うアメリカに比べて研究機関としての色彩が強いとさえ感じます。

アメリカの大学で2年間の一般教養課程を取らざるを得ない背景には、専門教育を学ぶための基礎を作る必要があるためなのかもしれません。

約30年前にアメリカの公立大学の英語準備コースに短期留学した際、大学1年生の化学の授業に潜り込んだことがありますが、授業内容が日本の高校1年生レベルであることに驚きました。アメリカ滞在中に大学院進学時に必要な共通試験(GRE)の問題集を見せてもらったのですが、日本では中学生で学ぶ平行線の同位角や錯角の問題が含まれていたことに更に驚きました。

当時、「日本人は高校まで猛烈に勉強して大学で遊ぶが、アメリカ人は高校までは遊んでも大学で猛烈に勉強する」と言われていました。今は昔と違うかもしれませんし、アメリカのトップ大学を目指すような方たちは違うのだと思います。しかしながら、全体として見れば、アメリカ人の高校卒業時点での学力は現在でも それほど高くありません。OECDの2022年PISAランキングでは、アメリカは数学的リテラシーで81カ国中34位、科学的リテラシーで16位、読解力で9位という順位でした。

一方で、息子がポーランドの大学で学んでいる内容は1年次からかなり高度であり、日本の高校レベルの内容が大学で扱われているという話は聞いたことがありません。

ヨーロッパの大学は、アメリカの大学で行われている2年間の一般教養課程がない代わりに、入学当初から選択した専門分野を学び始めます。こうした制度設計からも、専門人材の育成に重点を置いていると言えそうですし、ヨーロッパの大学は専門人材を育成する機関としての側面が強いと思います。

授業スタイルの違い:アメリカ vs ヨーロッパ

専門課程の開始時期以外にも、アメリカとヨーロッパの大学では授業スタイルにも違いが見られます。

息子から聞いたポーランドの大学の授業では、「勉強のやり方」を教えることに重点が置かれている印象があります。分厚い英語の教科書を読みこんでからの参加が求められる講義の授業、頻繁に行われるグループワーク、そして成果発表のためのプレゼンテーションなどが盛んで、インプットとアウトプットの両面を多くこなすことが求められます。ただし、ディスカッションの頻度はあまり高くないようで、「ディスカッションの授業が大変だった」といった話は特に聞いていません。

アメリカの大学でもグループワークやプレゼンテーションは重視されますが、それに加えてディスカッションの機会が非常に多く、むしろそれを中心に授業が進められるケースも少なくないようです。大学や学部によって差はあるにせよ、一般的にアメリカの大学は、知識を単に覚えるのではなく、「考えるプロセス」を重視しているように思われます。

大学院になると、アメリカの大学でも専門性を重視した教育にシフトしますが、卒業論文が必須ではなく選択制であるプログラムが多いようです。ヨーロッパの大学院も高度な専門的教育や研究が行われていますが、学士課程から教育のスタイルが大きく変わるわけではないようです。

「アメリカの大学は研究機関、ヨーロッパの大学は人材育成機関」という話は、少し単純化されすぎているように思いますが、「アメリカの大学は資金が潤沢で、研究成果を出しやすい環境が整っている」「ヨーロッパの大学は学部課程に入学した当初から専門教育に特化しており、専門性の高い人材育成を重視している」という点は、おおむね実情に合致しているようです。

情報ソースのリンク先 一覧
・ リベラル アーツ・カレッジ:  アメリカ大学ランキング
・ Times Higher Education World University Rankingsの評価ウェイト: 内閣府
・ OECD PISA ランキング: Global Note

・ アメリカの授業スタイル: アメリカ留学.US
・ アメリカの大学院の授業: アメリカ大学院の特徴